ウクレレ・マガジン Vol.24 と製作についての語り

立て続けですが、ウクレレ・マガジン最新号にウクレレ「照り葉」コンサート ハワイアンコアを掲載いただきました。

ヘッドプレート、ロゼッタがオーシャンブルーのグラデーションになっているものです。

ドルフィンギターズさんでお取り扱いしています!ということで掲載されたのですが、当のウクレレはお問合せが何件もあり、販売と同時に売れてしまいました。

非常にありがたいことなのですが、お店に並んで沢山の方に弾いていただけるよう、製作していかないといけないですね。

 

年の瀬になりまして、1年を少し振り返っていました。

ブログを書く頻度は上がったものの、毎回お知らせばかりで当初予定していた製作に対する考えを書くというのがなかなかできていません。

このまま年を越してしまう前に、よくご質問いただく「製作家が作るものと工場製は何が違ってくるのか」について語りたいと思います。

 

工場製でも良いギター、ウクレレはあります。わざわざ製作家が1本1本手作りする高いギター、ウクレレを買わなくても、という意見もあるでしょう。

私もバイオリン職人時代は鈴木バイオリンという工場(分業制)に勤めていたのでその時代からよく考えていた話題でした。

結果、ポイントは「平均化」と「分業」にあると行き着きました。

工場製は明確に規格が定められています。ある一定の音色や見た目の範囲に入るように許容誤差を設定し、規格を数字化します。厚みは何ミリでブレーシングはこの形状、といった具合です。

その規格設定は木材による個体の差異に完全には対応できません。硬い材質で造ったときと、柔らかい材質で造ったとき、その平均らへんに規格を作って作り方を均等にします。

よって平均値の楽器が出来上がるのです。強い材で造られた楽器は硬い音になり、弱い材で造られた楽器は腰抜けた音になります。点数でいうと50点は下回らない、けどもっとよく鳴らせたよね。そんな楽器です。

その規格にぴったり合う強度の平均値材に当たったときだけ、よく鳴るギターが出来上がる、といった感覚です。

製作家が1本1本造る楽器は、多種多様な材質を吟味し、対応して楽器を製作しています。

木工に携わらない方が考えるよりはるかに木材の個体差は激しいんです。我々製作家が見て分からないくらい同じような木材でも、叩いてみると鳴り方が全然違うことはざらにあるのです。

まず良い木材を選んで購入する。そして木材にしっかり対応できる、規格を変幻自在に変えられる。そのことで造る楽器はみな85点以上を叩き出すことができる。これがまず一点です。

ここまでは楽器にお詳しい方ならご存知だったりもするでしょう。もう一点の「分業」についてがこの話の核になります。

 

私は楽器は1人が最初から最後の工程まで手をかけるべきだと考えています。

楽器の製作は全ての工程が音色に影響を与えます。一見、音には関係ない作業に見えても人間の耳に感じ取れないくらいの違いは生まれます。

その人間の耳に感じ取れないくらいの音の違いは工程を経るごとに積み重なって、最終的には人間の耳に感じられるほどの違いになります。

音に一番影響する木工をすべて一人でこなしたとしても、塗装や仕上げを別の人がやって、同じ考えの元に作業を進められていなかったら思惑とは別の音色の楽器になってしまいます。

しっかりミーティングして、製作に対する考えを共有すればいいじゃない、と思われるかもしれませんが、それが出来るレベルの話ではないのです。

ほんの少しの木材の誤差、わずかな手癖、それらが楽器に影響を与えるのです。そこには言葉に表せられない、他人と絶対に共有できない壁があるのです。

だから何百年も昔から、良いバイオリンやクラシックギターは工房で名工が1本1本手作業で、手間をかけて造るのです。

私の感覚では、分業で出来た楽器の最大点が90点で、一人で全て造った場合の最大点は98点にもなります。

己の考えで制御できる範囲に留めるんです。これが工場と製作家を経験した私の結論です。

 

はじめにも書きましたが、工場製でも良いギターは沢山あります。製作家でも全ての工程を一人でやっていないものがあります。それぞれの考えがありますので、私はそれを否定するつもりはありません。

私個人は木材を見極めて加工すること、全ての工程に心血を注いで音色を作り上げることがまず良い楽器を作る上での基礎になると考えています。

「工場製と製作家が造るものは何が違うのか」については以上となります。また個々の作業について、ひとつひとつ語っていきますのでお付き合いいただけたら嬉しいです。

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